腰の痛み
ギックリ腰に代表される急性腰痛や慢性化した腰痛と神経症状を伴う椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症では治療に対するアプローチが全く異なります。基本は投薬やリハビリ、電気治療、局所への注射などが中心となりますが、神経症状がある場合はMRI等の精査が必要になる事が多いですし、神経ブロックや手術という治療の可能性も考えておきます。いずれにしても正確な診断が必要です。

筋筋膜性腰痛症

原因・病態

筋筋膜性腰痛症とは筋肉や筋膜が原因となって起こる腰痛のことです。
腰背部は傍脊柱筋、広背筋、大腰筋(いわゆる背筋)といった筋肉や胸腰筋膜などの筋膜によって支えられており、無理な姿勢や捻り動作によりこれらの筋肉、筋膜が傷ついたり、デスクワーク、長時間の中腰での作業などにより筋肉に長時間負荷がかかり筋肉が強直することで疼痛が生じます。多くは腰に負荷がかかった直後に発症しますが、中には朝起きた直後や何もしていないときに起きることもあります。このような慢性の筋筋膜製腰痛は、日ごろの腰の使い過ぎや姿勢の悪さ、座りっぱなしなど同じ姿勢でいることが多いなどが原因で筋肉に疲労が蓄積することで発症します。

症状

腰背部の動作時の痛みが一般的です。特定の動きでなくともどんな動きでも広範囲に疼痛が生じ、体動が困難となることもあります。また、胸腰筋膜は大殿筋ともつながっていますので疼痛が臀部から太ももの裏に響くこともあります。軽症の場合は腰のこわばり、筋肉が強直して動きづらいといった症状が主体になります。

検査・診断

問診、診察で疼痛部位や程度、疼痛が湯初される姿勢、動作を確認します。
検査では、X線(レントゲン)検査やMRI検査を行いますが、基本的に筋筋膜性腰痛症では異常所見を認めません(急性期の重症例では筋肉にいわゆる肉離れのような筋損傷所見を認めることはあります)。腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニア、腰椎圧迫骨折など他の原因がないか鑑別のために検査を行います。

治療

手術加療が必要となることはなく、保存的治療の適応です。発症直後の疼痛が強い時期は安静が望ましく、コルセット(腰椎ベルト)を装着する場合もあります。除痛のためには消炎鎮痛薬などの内服や外用薬、局所へ注射加療が有効です。また、硬くなり動きが悪くなった筋肉、筋膜の緊張を緩和するためマッサージ、ストレッチを行い、疼痛が和らいでくれば再発予防のための体幹筋力トレーニングなどリハビリテーションが主体となります。

当院での診療内容

当院では発症直後の急性期には投薬加療、注射療法、コルセットの処方、温熱療法、電気治療などの物理療法などを組み合わせながら治療を行います。並行して理学療法士によるリハビリテーションも行い、最初はマッサージ、ストレッチから始めながら徐々に体幹の筋力トレーニングも行い再発の予防に努めます。

腰椎椎間板ヘルニア

原因・病態

椎間板は、背骨と背骨の間でクッションの役割を担っている構造物で、中心部は髄核と呼ばれるゼリー状の弾力に富んだやわらかい組織があり、その周囲は線維輪と呼ばれる丈夫な外層で包まれています。この線維輪の後方や側方部分が破綻して内容物が後方に飛び出したものを椎間板ヘルニアと呼びます。
椎間板が加齢や繰り返し外力が加わることで劣化し、重いものを持ち上げたり、中腰や前屈位といった椎間板に軸圧が加わるような姿勢を繰り返すことで線維輪が膨隆、断裂し、ヘルニアが発生します。

症状

腰背部、臀部に痛みが出現し、下肢にしびれが放散します。ヘルニアの場所により、本来障害のない臀部~下肢にも症状が出現することが特徴です。ヘルニアが大きく神経障害が進行すると足に力が入らないといった麻痺症状やつまずきやすくなるなどの歩行、運動障害が起こります。また、ヘルニアの部位、大きさによっては残尿感や便が出にくいなどの症状(膀胱直腸障害)が出現することもあります。痛み、しびれは前屈みで強くなることが多く、症状が強い人は、椅子に座ることも難しくなることがあります。

検査・診断

問診で痛み、しびれの部位、膀胱直腸障害の有無を確認し、診察では下肢の感覚障害、筋力低下の有無、場所からヘルニアの場所がある程度予測されます。仰向けに寝て膝を伸ばしたまま片足を持ち上げると下肢に走る痛みが誘発されることがあります(下肢伸展挙上試験)。
検査では、MRI検査がヘルニアの部位や大きさ、神経の圧迫具合を評価するのに大変有用です。X線検査でも椎間板の厚みによりヘルニアの有無が予測されます。また、動態撮影での不安定性(前後屈での椎体のぐらつき)の評価はMRIでは難しく、X線検査も有用な検査です。

治療

ヘルニアは、自然経過で縮小、消失する場合も多く、保存的治療(安静療養、鎮痛薬などの薬物治療、理学療法、注射療法など)が原則です。しかし、麻痺症状や膀胱直腸障害が出ている場合、保存的治療でも疼痛が改善しない場合は手術の適応となります。

当院での診療内容

当院ではまず消炎鎮痛薬や神経痛に対する内服薬の服用、コルセット(腰椎ベルト)の処方、骨盤けん引温熱療法などの物理療法、理学療法士によるマッサージやストレッチなど理学療法を行っています。それでも疼痛が強い場合は神経ブロック注射(仙骨裂孔ブロック、腰部硬膜外ブロック)を行います。これらの治療でも疼痛が改善しない場合は手術目的で脊椎専門医の在籍する病院へ紹介しております。

腰部脊柱管狭窄症

原因・病態

背骨の後方の脊髄の通り道を脊柱管と呼びます。脊柱管は前方は椎間板や後縦靭帯、後方は黄色靱帯、側方は椎間関節など骨、関節に囲まれたトンネルのような構造をしており、これらの組織が変形することで脊髄が圧迫され発症します。

症状

腰椎椎間板ヘルニアと同じように下肢の痛み、しびれ、下肢の力の入りにくさ(麻痺症状)、尿や便の出にくさ(膀胱直腸障害)といった症状が出現します。特に腰を沿った姿勢で疼痛、しびれが誘発されることが多いです。また、腰部脊柱管狭窄症に特有の症状として間欠跛行と呼ばれるものがあり、立ったり歩いたりすると次第に下肢の痛みしびれが増悪し前かがみでしばらく休むと症状が改善するといったことを繰り返す場合があります。この間欠跛行が増悪すると長時間、長距離を歩くことができなくなり、やがて下肢の筋力低下、運動機能低下につながります。

検査・診断

問診にてしびれの範囲、疼痛が誘発される姿勢、動作を確認し、おおよその神経が競作している部位を推定します。診察にて疼痛、しびれの部位、知覚障害の有無、筋力低下の有無を評価します。
検査では、X線(レントゲン)検査で腰椎の変形所見がないか確認します。変形所見には椎間板の扁平化(椎間板腔狭小化)、椎体の変形(骨棘形成)、椎体の前後のずれ(辷り)、動態撮影での辷りの増悪(不安定性)などが挙げられます。さらにMRI検査を行うことで脊髄を圧迫している要素(前方では椎間板ヘルニアの合併や骨棘、後縦靭帯の肥厚、骨化、椎体の辷り、後方では黄色靱帯の肥厚、脂肪体の増大、側方では椎間板ヘルニアの外側への脱出、椎間関節変形に伴う骨棘形成など)の評価や神経の圧迫具合を詳しく評価することが可能です。

治療

まずは保存的治療(安静療養、鎮痛薬などの薬物治療、理学療法、注射療法など)が原則です。脊髄の狭窄がある場合でも狭窄のみでは無症状のことも多く、一過性の神経の障害や周囲の炎症が落ち着けば内服薬が必要なくなることも少なくありません。しかし、麻痺症状や膀胱直腸障害が出ている場合、保存的治療でも疼痛が改善しない場合は手術の適応となります。

当院での診療内容

腰椎椎間板ヘルニアと同様に内服薬やコルセット(腰椎ベルト)の処方、骨盤けん引温熱療法などの物理療法、理学療法士による理学療法、疼痛が強い場合は神経ブロック注射を行います。疼痛が軽減すると体幹ストレッチ、筋力トレーニングなどのリハビリテーションが主体となり、積極的に加療を行っております。